シャムキャッツ・夏目知幸

March 8, 2017

 

 

 私たちは「自分の日常」からは離れられない。その中で生じる些細な出来事に、都度心をささやかに揺らしては、感情と感情の間をこまめに行き来している。特別な感動がいつでも自分の身に降り注げばいいと思うこの瞬間にも、いつもの風景がもたらす彼是に小さく笑ったり、あの日を思い出したり、若干不安になったりすることを絶えずに繰り返す。そして、それも「自分の日常」であるから、決して派手ではないそんな心の動きに一喜一憂することにもある程度肯定的でいたい。

例えばそういう時にも、シャムキャッツの音楽は存在感を発揮してくれるように感じます。私たちの生活に柔らかく馴染むシャムキャッツの音楽がどういう風に描かれるのか、そのヒントを少しだけ教えていただきました。

Interview:Miyaco/Photo:MiNORU OBARA

 

 

 

―シャムキャッツっていうバンドは、アルバムに向けて曲作りをしていくのか、それとも普段から曲作りをしていてその中からアルバムに合う曲を収録していくスタイルですか?

 

『AFTER HOURS』(2014.3.19リリース)と『TAKE CARE』(2015.3.4リリース)は最初からコンセプトが決まってて、そこに向かって完成させていった作品なんですけど。そのやり方に少し飽きてしまって、『マイガール』(2016.8.10リリース)と『君の町にも雨はふるのかい?』(2016.11.16リリース)は、まとまりをあまり意識せずに作りました。個人的に生まれてきた曲とかバンドでセッションして生まれた曲とかをひとつずつ形にして集めたっていう感じ。そのやり方も、今はもういいかなっていう気になって、次のアルバムはまたコンセプトを設けてやっていて。だから、その時と場合によって違います。

 

―『TAKE CARE』はどういうテーマだったんですか?

 

『AFTER HOURS』の続編っていうテーマだったんです。『AFTER HOURS』は、自分たちが住んだ地元の埋め立て地の風景を描くっていうコンセプトで、その10曲では描き切れなかった風景を『TAKE CARE』の5曲で描くっていうコンセプトでした。

 

―街の風景?

 

そう、街の風景と、そこに暮らしてる人たちの景色。

 

―なるほど。『マイガール』はどういう風に作っていたんですか?

 

強めの言葉というか、わかりやすいラブソングを作りたいなと思って。それを自分たちらしくやるにはどうしたらいいかなって思ったら、ああいう形になりましたね。だからテーマがあるとしたら、4人で楽しくやるっていう感じだったかもしれない。コンセプトを決めて作ると、メンバーに我慢させるというか、「本当はもっとこうしたいけどコンセプトに合わせるとこうだよな」っていうのが出てくるから。なるべく我慢させないでやりたいことを詰め込んでみるっていうのが『マイガール』の3曲で。だから割といろんな音が入ってるかな、自由度が高い感じ。

 

―わかりやすいラブソングっていうのは、他のラブソングとはイメージが少し違うんですか?

 

あ、そうそう。それまでに僕が書いていたラブソングは男としてちょっと弱いというか。「好きなのに伝わらない、想いが伝わればいいな」みたいな気持ちとか、“SUNNY”の「君のお腹ん中に入らせて」っていう歌詞とか、ちょっとナヨナヨした男子を描いてきたような気がしたんだけど。もっと大人にならないとなって思って、初めて、自分から「そばに来ればいいじゃん」って言う男子を描いた、そういう意味でちょっと今までとは違うかな。

 

―確かに、大人というか余裕のある男の人ですよね。

 

そうそう。そういう風にならないとなって思ったんですね。

 

―『君の町にも雨はふるのかい?』はどういう風にできたんですか?

 

最初は、いろんなタイプの曲を作りたくて、あまりまとまったものを作りたくないって思ってたからコンセプトを設けずに制作してたんですけど。ただ、制作中にメンバーと話してたのはアンビバレントっていう言葉で。なにか出来事があった時に、表裏一体の気持ちが生まれるようなことを指すんだけど。例えば、“洗濯物をとりこまなくちゃ”っていう曲では、友達から「子供が生まれて引っ越したんだよね」っていう電話がかかってきたときに、すごく嬉しい気持ちと、「自分は毎日の生活に追われてるだけで、また雨が降ってきて洗濯物を取り込こんでっていうことで忙しくしていて、このままで大丈夫なのかな」っていう焦り。陰と陽の両方の気持ちが発生するっていうこと。そういうものが表現できたらいいなっていうのはメンバーとなんとなく話していて。そのことは忘れて作業をしていたんだけど、改めて聴いてみたら全体的に結構そうなってた気がする。

 

―日常生活の中で、そういう感情を感じることがあったんですか?

 

そう、そういうのが多かったんだと思う、ここ最近。だけどそういう自分の気持ちにフィットする曲が他のアーティストから出てきていなくて、自分で作ろうって思ったのかな。

 

―アンビバレントっていうとすごく哲学的に聞こえるし大げさに捉えてしまいそうなんだけど、日常生活の中で生まれているそういう小さな気持ちの揺れを歌ってるってことですかね?

 

そうそう。

 

―そういう小さなアンビバレントって結構みんな経験があると思うけど、私はあまり立ち止まらずにやり過ごして生きてるような気がするから、そういう気持ちが作品になるのはすごいなって思うんですけど。そういう自分に気付いたときってどういう気持ちになりますか?

 

負の感情も生まれてるわけだから、そういう自分は性格悪いなーって思ったりもするけど(笑)、あまりきれいごとばっかり歌っててもしょうがないかなって。そういう気持ちを曲に持ち込みたくなったんだろうな、自然と。

 

―生活感のあるリアルな景色の中でそういう感情を歌ってくれるから、聴く人にもスッと馴染むのかもしれないですね。夏目さんの歌を聴くと、夏目さんの部屋を覗いているような感覚になります。歌詞はどういう風に書いてるんですか?

 

『たからじま』(2012.12.5リリース)までは自分を投影するというか、自分の気持ちをなるべく歌詞に落とし込むっていう書き方をしていたんだけど。それ以降は、自分によく似た主人公がいて、そいつが歌の中で動いていくっていうのを考えていて。方法としては、主人公は何歳で、どこに住んでて、何を考えていて、どんな職業で、季節はいつで、って状況を先に書いて。それを基にストーリーを組み立てて、そのストーリーが全部伝わるように歌詞を作るっていう作業をしてる。

 

―へぇ!小説みたい!

 

うん、結構そうかも。ここはこうじゃないとな、って思うポイントが自分の中にはあるから、それをはめていく感じで。

 

―例えば“GIRL AT THE BUS STOP”の歌詞って視点がすごく動くじゃないですか。あれが素晴らしいなと思っていて。あの曲はどういう風にできたんですか?

 

浦安ですごく好きだった景色があって。浦安は東京湾の一番奥だから、海を見ると水平線がなくて、向こうの方に工場の光が見えるんですよ。夜はそれがすごくきれいで、夜に見ていたその景色を歌にしたいなって思ってて。きれいな雰囲気を出したかったんですよ。自分の中に残ってる気持ちをそのまま歌にしたかったから、主人公が海を思い出すっていうストーリーがいいかなって思って書いたら、場面や視点が動くものになりましたね。いろんな景色が頭の中にあったから、防波堤も出したいし、女の子がバス停で待ってる風景も出したくて、その全部をつなげるストーリーを考えてたらそうなりました。

 

―そうなんですね。すごく鮮明に映像や景色が思い浮かぶんですよね。

 

あれはたくさんの人が好きになってくれた曲だけど、そうなるとは予想してなかった。

 

―夏目さんの歌う女の子像ってちょっと素朴さがあって、はつらつとしているというよりはちょっと影もある印象なんですけど。そういう女の子像ってどこから出てくるんですか?

 

うーん、たぶん自分の趣味かなぁ。頑張ってるというか、健気さのある女の子が好きなんですよ。曲のどこかにその健気さを匂わせたいんですよね、そうするとキャラが際立っててくる気がして。例えば“LAY DOWN”だと仕事辞めて疲れてるかもしれないし、“GIRL AT THE BUS STOP”の女の子も疲れてる。だけどそれって、状況に負けてるってことじゃなくて乗り越えようとしてるんですよね。そういう女の人を見ると勇気が出てくる感じがして。女の子を登場させるのは結構好きですね、次のアルバムにも結構出てくる気がする。

 

―登場人物を設定して書かれたストーリーや歌詞ということですけど、その物語の向こう側には何かしら伝えたい想いが込められているんでしょうか。それとも、ストーリー自体を楽しむのが正解?

 

楽しんでもらえてたらいいんだけど。なぜ歌詞を書いているかっていうと、一番大事なことを言わなくていいように書いてるっていうことだから。例えばカレーが好きだっていうことを伝えたい曲を作るときには、「俺はカレーが好きだ」っていう言葉が入ってないほうが理想的だと僕は思ってるんですよ、その方がカレーが好きだっていうことが伝わるものができると思ってて。だから、伝えたいことはあるけど、それを全部ストーリーとか景色に隠してる感じ。言葉よりも、景色とかシーンの方が印象に残るような気がしてるから。例えば「懐かしい我が故郷」っていう言葉は強いけど、それよりも何かひとつ景色を見たほうが入ってくるというか。「昔好きだったあの子、元気にしてるかな」っていう気持ちを、「昔好きだったあの子、元気にしてるかな」って歌っても意味がない。そうなったときに、“GIRL AT THE BUS STOP”みたいな曲になるのかな。

 

―なるほど。だから聴いてる人は、ストーリーを頭の中で映像化してしまう過程で、いろんな感情を拾えるんですかね。

 

うん、映画を見るように曲が聴けたらいいかなって思いますね。

 

 

―夏目さんは20代をバンドで過ごしてきたわけじゃないですか。20代の初めの頃と今とで、感じることや歌ってることって変わってきてますか?

 

うん、いい意味で変わってきてると思うし、ここ1,2年はなるべくそういう部分に嘘をつかず、考えることとか出会う人が変わってきたら、その都度歌うことを変えていこうって思ってやってた。でも最新のモードはまた少し違っていて。例えば、どんなにおじいちゃんの映画監督でも青春映画は撮れるし、若者の恋愛映画は撮れるじゃないですか。いろんな経験を活かしていい映画が撮れると思うんです。だから自分も、今だけを切り取るんじゃなくて、生まれて今まで、もしかしたらこれから先のことでも、暮らしてるとこういうきれいな瞬間があるよねっていうのを見つけたらそこにフォーカスして曲を作りたいなって思いますね。

 

―そうなんですね。これからも、そういう変化には素直に。

 

そうですね、そうなっていくと思う。(年月を重ねることで)何かを失ってきたっていうイメージは僕たちにはなくて、技術も身について、メンバーの関係も良くなったことによって、最初は出来なかったことが出来るようになっていったから。変わっていくことをポジティブに捉えて、ものを作っていきたいかな。

 

―メンバー間で意見がぶつかることは?

 

全然あるけど、喋って解決していく感じかな。話せばわかるというか。何かに対して誰かが強いイメージを持ってたら、そのイメージって大事というかやっぱり強くて。最初はそれが理解できなくてあまり良いと思えなかったものが、クルッと良いものに変わる瞬間って結構あって。だから、曲でもライブのやり方でも、誰かが直感的に「これは良い!」と強く思ったものは、話してるうちに良い方向に向かうかな。

 

―そういう成功体験があるから、直感を信じてやれてるんですね。

 

インスピレーションの強いメンバーに任せるっていうのは、僕たちのやり方かな。

 

―今は自主レーベル「TETRA RECORDS」を立ち上げて活動されていますが、そのきっかけは何かあったんでしょうか。

 

外的な要因もたくさんあったんだけど、環境くらいしか自分たちで変えられるものってなかったりするじゃないですか。今までと同じ状況で、今までと同じように作曲とライブを繰り返してるように思えた時期もあって。だったら、環境を変えて実験していこうっていう感じだったと思う。

 

―いつかやろうと思っていたわけではなく?

 

いつかやろうとは思ってた。でも、こんなに早くそのタイミングがくるとは思ってなかったかも。だから、結果的には良かったんだけど。

 

―実際にやってみて感じたことはありますか?

 

最初は大変でした。今はやっとメンバー間とスタッフ間の関係もまとまってきてあまりストレスなくやれてるけど、最初はバンドをやる手前のコーディネートに時間がかかっちゃって。だから正直言うと、去年は趣味的に音楽を聴くような時間や気持ちの余裕もあまりなかったかな。年末くらいから少し余裕がでてきて、今は作品作りに集中できてるし、いろんな音楽を聴くのが楽しくなってきてる。

 

―それも必要な時間だったんですかね。

 

そうそう。結果的に、そういう時間があって良かったと思う。

 

―では最後に、今年の予定やビジョンなどがあれば教えてもらえますか。

 

今はコンセプチュアルなアルバムを作ってるので、上半期にそれをリリースして、ツアーを秋くらいから回ろうと思っていて。それをいい感じにできたらなって思ってます。自分の頭の中ではアルバムは固まってきてて、良いものになりそうな気はしてる。

 

―アルバムのコンセプトが気になるけど、先入観なく聴いて感じる楽しみを残したいので今はまだ聞かないことにします(笑)。

 

あ、そう?(笑)そうだね、聴いてもらって伝わるものもあると思うので楽しみにしててください。

 

 

 

 

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